「尿もれ改善」か「セクシャルウェルネス」か。骨盤底筋トレーニング器具の薬機法リスクと2022年通知の解説
この記事は、2022年6月16日に公開した旧記事を、2026年という今のフェムテック市場に合わせて『全編書き直し』したものです。制度の変遷も含めて、最新の知見を整理しました。
【この記事の、30秒でわかる要約】
- 膣内に挿入する「骨盤底筋トレーニング器具」は、「尿もれ(尿失禁)の改善」を標榜した時点で医療機器に該当します。
- 2022年の通知により一般的名称「骨盤底筋訓練器具」が新設され、適法な尿もれ訴求には医療機器としての製品手続きが必須となりました。
- 最大の注意点は、医療機器ルートを選んだ場合、「性感を高める」等のセクシャルウェルネス的訴求は一切不可となる点です。
- 事業者は、製品のコア価値が「医療的解決」なのか「プレジャー」なのかを企画段階で厳格に切り分ける必要があります。
2026年の市場分析:行政書士の目から見た「産後ケア」のリアル
行政書士の大串です。私自身、出産後に「腹圧性尿失禁」いわゆる尿もれに悩まされた経験があります。縄跳びとかトランポリンとかができなくなるやつです。だからこそ、女性特有のヘルスケア領域、特に骨盤底筋のケアに関しては、一人の当事者としても、そして薬機法や医療機器を専門とする行政書士としても、非常に強い関心を持っています。
生活の中で「骨盤底筋を鍛える」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。この筋肉群が緩んでいると尿もれが起こりやすくなるとして、改善のためのトレーニングが推奨されています。手法としては、身一つで行うドローイングや、道具を用いるやり方(EMSパッドや膣内に挿入するトレーニンググッズ等)が存在します。
昨今、産後ケアグッズのWeb広告やYouTube、整体等のメニューで「尿もれ改善」を謳うものを頻繁に目にします。わかる人には「あらあら(薬機法的に)不適切」などと思われながらもスルーされることが多いこれらの表現ですが、そう遠くない未来に整理されてくるんだろうなと思っています。
さて、2022年に医療機器として「骨盤底筋訓練器具」がデビューして以降の”この辺”を、見ていってみましょう。
【重要】2022年の通知が明確化した「尿失禁の予防・治療=医療機器」
令和4年(2022年)4月13日には、尿もれ等に関して重要な通知が2通出されています。照会していきますね。
ひとつめの通知:一般的名称「骨盤底筋訓練器具」の新設
このひとつめの通知1により、家庭において膣内に挿入し、尿漏れの改善等を目的とした訓練を行う装置が、正式に医療機器(一般医療機器・クラスⅠ)の一般的名称として定義されました。
家庭において、膣内に挿入して、尿漏れの改善等を目的とした骨盤底筋の訓練を行うための装置である。ただし、低周波や電気刺激等のエネルギーを与えるものを除く。圧力センサーや訓練内容を表示するプログラムを備えるものもある。
令和4年4月13日付、薬生発0413第1号、厚生労働省医薬・生活衛生局長通知
ふたつめの通知:骨盤底筋の運動に用いる機械器具の医療機器該当性に関する判断基準
ふたつめの通知2は、ひとつめの通知で医療機器の一般的名称に「骨盤底筋訓練器具」が新設されたことに伴い、膣内に挿入して使用する訓練器具の医療機器該当性に関する判断基準を示したものです。
主な内容としては、膣内に挿入するもので、骨盤底筋の運動のみを目的とし、疾病の診断・治療・予防や身体の構造・機能への影響(医療機器的な使用目的)を目的としないものは、電動・非電動を問わず医療機器に該当しないとの定義づけですかね。

これら通知により、骨盤底筋トレーニング器具が整理され、参入しやすくなったなーと思っています。
開発や広告で押さえておきたい、膣内に挿入して骨盤底筋の運動に用いる機械器具の整理
先ほどふたつめ、としてお知らせした通知では、医療機器とみなされる広告文言を例示で示してくれています。
| 分類 | 該非を分ける「標榜(目的)」の基準 | 具体的な標榜・表現の例 | 備考 |
| 医療機器に該当する | 「医療機器的な使用目的または効果」を標榜するもの。(疾病の診断、治療・予防や、身体の構造や機能への影響をうたう場合) | ・損傷した骨盤底筋の修復 ・尿漏れ(尿失禁)の治療、改善、予防 ・子宮下垂、子宮脱の治療、改善、予防 ・マッサージ効果(疲労回復、血行をよくする、筋肉の疲れをとる、筋肉のこりをほぐすなど) ・鎮痛・消炎 ・生理痛の緩和 ・PMS(月経前症候群)の改善 ・更年期障害の緩和 ・便秘の改善 ・不眠症の改善 ・冷え性の改善 ・膣内の保湿 ・膣分泌液の分泌機能改善 | このような表現を一つでも行う場合は、適切な医療機器としての届出・認証・承認が必要となります。 |
| 医療機器に該当しない(非該当) | 「骨盤底筋の運動のみ」を目的とするもの。(疾病の診断・治療・予防や、身体の構造・機能に影響を及ぼすという認識を消費者に与えない範囲。) | ・運動による健康維持・増進を趣旨とする表現 ・・筋力を鍛えることで、医療機器(月経カップ等)の取り出しを容易にする趣旨の表現 | 電動(低周波、電気刺激等のエネルギーを与えるものを含む)、非電動を問わず、この範囲の標榜のみであれば医療機器には該当しません。」 |
広告の罠:医療機器ルートを選ぶと「セクシャル訴求」は一切不可
ここからが、実務上の大きな落とし穴です。製品を医療機器として届出・流通させる場合、「性感を高める」といった、いわゆるセクシャルウェルネス(雑品)的な訴求は、薬機法(医薬品等適正広告基準)により一切できなくなります。
医療機器になることで「尿漏れの改善」という医学的効果を標榜でき、製品の信頼性は向上しますが、一方で以下のような極めて厳格な「広告の縛り」を受けることになります。
1. 届け出た「使用目的」以外の表現は一切不可
医療機器の広告では、届出・認証された「使用目的」の範囲を超えた表現は禁止されています。例えば、骨盤底筋訓練器具の定義は「尿漏れの改善等を目的とした訓練」です。したがって、その機器が骨盤底筋訓練器具である場合には、その定義から外れる「性感を高める」「感度アップ」といった表現は、遡及可能な範囲を逸脱する明らかな法令違反となります。
2. 医療機器における「性的表現」自体の禁止
薬機法の広告ルールでは、医療機器の「品位の保持」が求められます。具体的には、「性的表現等で医薬品等の信用を損なうような広告は行わないこと」と明確に規定されています。性的表現は製品の本来の使用法を誤らせる原因となるため、許容されません。
3. 「本来の効能効果ではない表現」の禁止
医薬品等適正広告基準では、本来の効能効果を誤認させるおそれのある広告も禁止されています。例えば、医療機器において「夜を楽しむ」といった情緒的・性的ニュアンスを含む表現を用いることは、同様の規制対象となります。
ビジネス上の分岐点:専門家からのアドバイス

骨盤底筋デバイスは、ターゲットをどこに置くかによって、薬事戦略を真二つに分ける必要があります。
- 【医療機器ルート】(尿漏れ・産後ケア市場)
- 利点: 「尿漏れ改善」を謳え、医療機関での取り扱いや医師の推奨を狙いやすい。
- 制約: 性的・美容的な訴求は不可。パッケージやLPも「医療機器としての品位」が必要。
- 【雑品(非医療機器)ルート】(セクシャルウェルネス市場)
- 利点: 「プレジャー」「パートナーとの関係性向上」といった感情に訴える自由なマーケティングが可能。
- 制約: 「尿漏れが治る」といった医療効果は一切謳えない。
今回開発される製品のコアとなる提供価値(誰の、どんな悩みを解決したいのか)が「尿漏れ」なのか、それとも「セクシャルウェルネス」なのか。このコンセプトを企画段階で明確に切り分けておくことが、後戻りのない事業展開において極めて重要です。
まとめ|「治療器」として勝負するか、「健康器具」として展開するか
すでに市場には、一般医療機器(クラスⅠ)として届出を済ませ、正攻法で「尿もれ予防」をサポートする製品が登場しています。一方で、ブランドの世界観を優先し、あえて雑品として自由な表現を選ぶ企業もあります。
競合が信頼性を武器にする中で、貴社はどのようなポジションで参入しますか?アプリ連動を検討されている場合は、ソフトウェアの挙動が運命を決める「SaMD(プログラム医療機器)」のリスクも考慮せねばなりません。

おおぐし行政書士事務所では、最新の事例に基づき、貴社製品に最適な「参入スキーム」と「広告戦略」を策定します。開発の初期段階で、まずは弊所の無料相談にて貴社のビジョンをお聞かせください。
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【免責事項】 本記事の内容は執筆時点の法令および筆者の実務経験に基づく個人的見解であり、特定の事案に対する法的保証を与えるものではありません。具体的な製品の該当性判断や広告表現の精査については、所轄官庁への確認や専門家への個別相談を推奨致します。また、弁護士法第72条に則り、当事務所では個別の民事紛争に関する代理交渉等はお受けしておりません。
脚注
- 令和4年4月13日薬生発0413第1号「「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二条第五項から第七項までの規定により厚生労働大臣が指定する高度管理医療機器、管理医療機器及び一般医療機器(告示)及び医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二条第八項の規定により厚生労働大臣が指定する特定保守管理医療機器(告示)の施行について」等の改正について」 ↩︎
- 令和4年4月13日薬生監麻発0413第5号「骨盤底筋の運動に用いる機械器具の取扱いについて」 ↩︎

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- フォームに入力されたメールアドレス以外に、当事務所から連絡差し上げることはいたしません。
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