【SaMDスタートアップの壁】「五役」は兼務で乗り切れる!最小限で挑む医療機器参入戦略
「革新的なプログラム医療機器(SaMD)を開発したが、薬機法の『三役(五役)』を揃えるリソースがない……」。これは、デジタルヘルス領域から参入するスタートアップが必ず直面する壁です。
少人数のエンジニア集団にとって、薬剤師や業界経験者を複数名雇用するのは現実的ではありません。しかし、薬機法には「兼務」のルールや、ITエンジニアでも責任者になれる「学歴要件」が存在します。
本記事では、最小限の人数で「医療機器メーカー(製造販売業者)」としての体制を整え、最速で製品を市場に出すための現実的な戦略を、行政書士の視点から解説します。
※医療機器全般の基礎知識を確認したい方へ
三役の定義や、ハードウェアを含む医療機器全般の正確な資格要件・法的責任については、こちらの[【2026年最新】医療機器製造販売業の「三役(五役)」とは?資格要件と兼務制限の実務ガイド]をご覧ください。
1. SaMDなら、ITエンジニアこそ「総括」の適任者である理由
医療機器プログラム(SaMD)事業において、全業務を統括・監督する「総括製造販売責任者(総括)」の確保は、実はそれほど難しくないかもしれません。なぜなら、その資格要件には「情報学(情報工学)」が含まれているからです(薬機法施行規則 第114条の49第1項第1号)。
- 総括になれる人(クラスII・III共通):
- 大学、高等専門学校(高専)等で、物理、化学、生物、工学、情報、薬学、医学などを専攻し卒業した者。
- (※薬剤師も「薬学に関する専門の課程を修了した者」として当然に対象となります。)
つまり、情報系の学部を卒業したCTOやエンジニアであれば、業界未経験であっても、大学の卒業証明書をもって「総括」として責任者に就任することが可能です。
2. 【最少人数シミュレーション】「兼務パズル」で挑む体制構築
「五役を設置する=5人雇う」必要はありません。品質管理と安全管理の客観性を担保するための「禁止された組み合わせ」を除き、戦略的な兼務が認められています。
パターンA:自社エンジニアが「品責」を担える(内製・最小人数重視)
平成26年の緩和措置をフル活用し、自社エンジニアを「総括+品責」に据える戦略的布陣です。第一種において唯一認められている実務的な兼務ペア「総括+品責」を活用します。エンジニアに「品質」と「統括」を集中させ、代表者が「安責」を担うことで、第一種であっても最小2名での体制構築が法的に可能です。
【第一種(クラスIII)でも実現!】 最少2名体制

自社エンジニアが、品責になれる3年以上の実務経験を持っているという医療機器業界での神エンジニアだった場合に取れる戦略です。
- 自社エンジニア: 総括 + 国内品質業務運営責任者(品責) + 管理責任者+責任技術者(同一施設内)
- 自社CEO等: 管理監督者 + 安全管理責任者(安責)※第一種の場合には実務経験3年が必要です。
パターンB:外部専門家を「品責」に招く(スピード重視)
最も実務難易度の高い「品責」をプロに任せ、自社メンバーが法的責任の要を担う構成です。
【第一種(クラスIII)】 最少3名体制

- 自社エンジニア: 総括 + 管理責任者
- 外部専門家(経験者): 国内品質業務運営責任者(品責)+責任技術者(同一施設内)
- 自社別メンバー(またはCEO等): 管理監督者 + 安全管理責任者(安責)
【第二種(クラスII)】 最少2名体制

- 自社メンバー(CEOまたはCTO等): 管理監督者 + 総括 + 安責 + 管理責任者
- 外部専門家: 国内品質業務運営責任者(品責)+責任技術者(同一施設内)
3. 品責・安責の「実務経験」という最後のハードル
学歴でクリアできる総括に対し、品責・安責は「実務経験」が問われます。ここが、2026年現在のスタートアップにとっての「本当の勝負所」となっています。
【注意】「裏ルート(講習特例)」は既に塞がれています
かつては「講習を受ければ実務経験3年とみなす」という特例(QMS省令附則第10条第2項等)がありましたが、この経過措置は2020年11月をもって完全に終了しています。
2026年現在、ITエンジニアがいきなり「講習だけ」で品責や第一種の安責になることはできません。だからこそ、経験者をどう組織に組み込むか、あるいは既存の許可業者(MAH)とパートナーリングを組むかといった高度な戦略判断が求められます。
4. 【重要】パズルの完成=ゴールではない。問われるのは「能力」
薬機法等では、各責任者の要件として、学歴や年数だけでなく「その業務を適正かつ円滑に遂行しうる能力を有する者であること」を明確に求めています。
形式上は適法でも、責任者が開発や資金調達に忙殺され、品質・安全管理の業務(QMSの更新や不具合報告)が全く回っていなければ、それは明らかな法令違反です。リコールが発生した際の責任問題は、スタートアップにとって致命傷になりかねません。「その布陣で、本当に実務が回るのか?」という実効性の観点を含めて組織をデザインすることが、真のスタートアップ法務戦略です。
免責事項(必ずお読みください)
本記事の内容は、公開時点の法令・通知に基づく筆者の私見であり、その正確性や妥当性を保証するものではありません。薬機法における人的要件の運用や兼務の可否、および「情報学」の該当性判断については、管轄の都道府県(保健所)やPMDA、厚生労働省の個別の判断が優先されます。実際の申請に当たっては、本記事のスキームをそのまま適用せず、必ず事前に管轄行政庁へ相談するか、当事務所まで個別にご相談ください。
結論:貴社にとっての「最適解」を一緒に探しましょう
SaMDビジネスの成功は、「いかに最小限のコストで、実効性のある体制(五役)を組めるか」にかかっています。
「自社のエンジニアの経歴は、本当に『総括』の要件を満たせるか?」「営業活動を担うCEOの代わりに、誰を安責に立てるべきか?」
おおぐし行政書士事務所では、SaMDスタートアップの皆様に向けた『五役・兼務スキームの無料診断』を実施しています。後戻りのない組織設計のために、まずは開発の初期段階でお気軽にご相談ください。

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