化粧品開発における基準適合と試験検査の重要性:根拠を積み重ねて築く品質と安全性

化粧品ポイント解説_化粧品開発における基準適合と試験検査の重要性:根拠を積み重ねて築く品質と安全性のアイキャッチ画像。おおぐし行政書士事務所

化粧品開発における基準適合と試験検査の重要性:根拠を積み重ねて築く品質と安全性

ほとんどの消費者は、日本国内で一般に販売されている化粧品は、安全なものだろうと無意識に信頼しています。その魅力的なコンセプトや使用感の裏側には、事業者の絶え間ない努力によって支えられる、科学的根拠に基づいた安全性と品質の確保という大前提が存在します。

この安全性と品質は、どのように担保されるのでしょうか。まず、製造業者は原料の選定や情報の精査、製造工程のメンテナンス、各種試験などを通じて、安全な製品を作る体制を整えます。そして、その製品の最終責任を負う製造販売業者は、こうした製造業者の活動を管理・監督することによって製品の品質と安全性を保証し、自社の名前で市場に流通させます。海外から製品を輸入する場合も同様で、海外の法律と日本の法律は異なるため、日本の市場で流通させる製品については、日本の法規制に適合する形で品質・安全性を確保することが製造販売業者には求められます。

この記事では、この「品質・安全性の確保」の根幹をなす、化粧品開発において不可欠な化粧品基準への適合と各種試験検査の重要性について、その目的と内容を詳しく解説します。

1. 化粧品基準への適合を確認する

化粧品の処方を開発する時には、日本の「化粧品基準」を逸脱しないことが大前提となります。それに加え、使用する原料同士の相性も考慮しながら開発を進めます。相性の悪い原料を組み合わせたり、混合工程が不適切だったりすると、製品の変質を招くことがあるからです。そのため、処方開発の現場では、各原料に何が含まれているのかという正確な情報と、原料そのものの品質が安定していることが強く求められます。

この「適合性の確認」は、通常、購入した原料を一つひとつ化学的に「分析」するわけではありません。むしろ、信頼できる原料メーカーから提供される成分情報(試験成績書など)を基に、処方を組むという「確認」作業が中心となります。実際の「成分分析」は、海外からの輸入化粧品の内容を確認する場合や、全く新しい独自原料の特性を評価する場合など、より専門的な状況で行われます。

日本の化粧品基準は、主に以下の要素で構成されています。

  • 総則:安全性の基本原則 化粧品基準の最も基本的な考え方として、「化粧品の原料は、それに含有される不純物等も含め、感染のおそれがある物を含む等その使用によって保健衛生上の危険を生じるおそれがある物であってはならない。」と定められています 。つまり、安全であることが全ての化粧品原料の絶対条件です。
  • ネガティブリスト:原則使用禁止の成分 化粧品基準の「2 防腐剤、紫外線吸収剤及びタール色素以外の成分の配合の禁止」と「3 防腐剤、紫外線吸収剤及びタール色素以外の成分の配合の制限」の項目は、通称「ネガティブリスト」と呼ばれます 。ここには、医薬品成分など、化粧品への配合が一切禁止されている成分や、配合量に上限が定められている成分がリストアップされています。処方開発の際は、これらの成分を意図せず配合してしまわないよう、細心の注意が必要です。
  • ポジティブリスト:特定の目的でのみ使用が許可される成分 化粧品基準の「4 防腐剤、紫外線吸収剤及びタール色素」の項目は、通称「ポジティブリスト」と呼ばれます。防腐剤、紫外線吸収剤、タール色素については、このリストに収載されている成分でなければ使用することができず、さらに各成分には配合量の上限が定められています 。
  • グリセリンの成分規制 化粧品基準の「5」ではグリセリンに関する規定があり、これは平成20年2月に追加されたものです 。

上述の化粧品基準に加え、業界団体が定める自主基準も存在します。例えば、19種類の「法定色素」について、日本化粧品工業会の自主基準に使用基準が定められています。

2. 微生物に関する試験

製品が微生物学的に安全であることを保証するための試験です。業界団体である日本化粧品工業会は、国際規格(ISO17516)に準拠した自主基準を定めています。

  • 微生物限度試験 製造・出荷時の製品が、微生物に汚染されていないかを確認する試験です。製品中の一般生菌数を測定し、基準値以下であることを確かめます。特に、目の周りに使う製品や乳幼児向け製品は、より厳しい基準値が設定されています。また、大腸菌や黄色ブドウ球菌といった特定の病原菌が検出されないことも確認します。
  • 保存効力試験(チャレンジテスト) 製品に配合されている防腐剤が、有効に機能しているかを確認する試験です。使用中に微生物の混入があっても品質を維持できるか(防腐剤が有効に機能するか)を確認するもので、製品にあえて一定量の微生物を添加し、その後の菌数の推移を観察することで、製品自身の防腐能力を評価します。

3. 安全性試験:人に対する安全性を確認する

処方がほぼ固まってきたら、通常は社内の複数人が実際の使用方法で一定期間使って、使用感や肌状態などを確認します。

これに加えて、必要に応じて、人の肌を使った以下のような専門的な試験を行う場合もあります。

  • パッチテスト 化粧品を皮膚に貼り付け、皮膚への刺激性を評価する試験です。
  • アレルギーテスト(RIPT) パッチテストを繰り返し行い、アレルギー反応を誘発する可能性を評価する、より詳細な試験です。
  • スティンギングテスト 敏感肌の被験者を対象に、使用直後のかゆみ、ヒリヒリといった一過性の刺激を評価する試験です。

ここで挙げたものは代表的な例であり、製品の特性に応じて、これ以外にも様々な人に対する試験が行われることがあります。

4. 安定性試験:品質の「時をかける」保証

製造したての品質が、お客様の手元に届き、使い終わるまで維持されることを保証するのが安定性試験です。これは、GQP省令で求められる品質保証の一環として、極めて重要な試験です。

  • 目的: 輸送や保管中に想定される様々な環境(温度、湿度、光など)に製品をさらし、経時的な変化を観察することで、製品の品質が維持される期間、すなわち「有効期間」や「使用期限」を設定することが主な目的です。
  • 評価項目: 色、香り、粘度、pHといった物理化学的な性質の変化や、微生物の増殖の有無、容器との適合性などを評価します。
  • 試験条件: 加速試験、苛酷試験、長期保存試験などを組み合わせて、多角的に品質の安定性を評価します。

5. 試験はどこで行う?(自社試験と外部委託)

これらの専門的な試験をどこで実施するかは、企業の体制によって異なります。

  • 製造業者の自社試験 ほとんどの化粧品製造業者は、自社内に試験設備を持ち、日常的な品質管理(原料や製品の規格試験など)や、基本的な安定性試験を行っています。
  • 外部試験検査機関への委託 一方で、パッチテストなどの人に対する安全性試験や、高度な機器を必要とする特殊な分析、あるいはより客観的なデータが求められる場合には、外部の専門的な試験検査機関が活用されます。 また、自社で試験設備を持たない製造販売業の許可しか持たない事業者の場合は、これらの試験を外部機関に委託することが一般的です。外部機関を選ぶ際は、GLP(優良試験所規範)等の基準への準拠、化粧品分野での実績、報告書の質などを考慮して、信頼できるパートナーを選定することが重要です。

まとめ:科学的根拠が、ブランドの信頼を創る

化粧品開発における成分確認と各種試験は、単なるコストや手間ではありません。それは、製品の安全性と品質を科学的に保証し、お客様の信頼を獲得するための、最も重要な「投資」です。

薬機法をはじめとする法規制を遵守することはもちろん、これらの試験を適切に実施し、そのデータを客観的な根拠として示すこと。その誠実で科学的な姿勢こそが、お客様に「このブランドなら安心して使える」と感じていただき、長期的に愛される製品とブランドを築き上げていくための、揺ぎない土台となるのです。

お気軽にご相談ください。

  • 初回相談は無料です。
  • 行政書士には秘密保持の義務が課せられております。
  • フォームに入力されたメールアドレス以外に、当事務所から連絡差し上げることはいたしません。