多くの国でそうであるように、日本でも「医業」を行うことができるのは有資格者に限られています。
今回は、この「医業」は誰が行えるのか、そしてそれはどういう行為を指すのかについて、法の定めを軸に見ていこうと思います。
日本では、「医業」を行うことができるのは「医師」のみ、「歯科医業」を行うことができるのは「歯科医師」のみであると法で定められています。ただし法は「診療の補助」行為は特定の有資格者に許しています。
また、判例は無資格者であっても狭い条件下では医師の助手として働く余地があることを示しています。
そしてこの「医業」を厚生労働省は「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を反復継続する意思を持って行うこと」であると解し、境界線上の業務については該当性の解釈が示されています。
この「医行為」については、判例ではもう少し範囲が狭まっており、「医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」とされています。
医業を行えるものは法律で明確に制限されています。医業は医師のみ、歯科医業は歯科医師のみです。
第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
医師法(昭和二十三年法律第二百一号), (令和四年法律第四十七号による改正), https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000201, (閲覧2022−08−17)
第十七条 歯科医師でなければ、歯科医業をなしてはならない。
歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)(令和四年法律第四十七号による改正)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000202(閲覧2022−08−17)
ただし、法で「診療の補助」が許されている看護師をはじめとした医療関係職種もあることも押さえておかねばなりません。
※医療関連職種(医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、診療放射線技師、理学療法士、作業療法士、臨床検査技師、視能訓練士、臨床工学技士、義肢装具士、救急救命士、言語聴覚士、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士)
また、狭く限定された範囲ではあるものの、医師が無資格者を助手として使用することも可能とされています。
法が一定の有資格者に限って診療の補助を業とすることを許していることからすると(保助看法五条、六条、三一条、三二条、六〇条、臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律二〇条の二、理学療法士及び作業療法士法一五条、視能訓練士法一七条等)、医師が無資格者を助手として使える診療の範囲は、おのずから狭く限定されざるをえず、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。
東京高裁63年(う)746号判決
ここで一度「医業」の枠組みから外れたものも見てみます。
世には様々な形態の商売がなされており、その中に医業に類似したものもあります。
厚生労働省はそういったものを公共の福祉に反しない範囲で「医業類似行為」とし取り扱っているようです。
では、ここまで登場した「医業」とは何なのでしょう。
実は法律には示されていません。なのでこの疑問については、厚生労働省が示す解釈を紹介します。
厚生労働省は複数の発出通知や作成資料にて、「医業」を以下のように解釈していると示しています。
(当方では複数確認できましたが内容は同一ですので、ここには一つだけ引用します)
この「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」平成17年7月26日医政発第0726005号 各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2895&dataType=1&pageNo=1(閲覧2022−08−17)
ここで新しい「医行為」という言葉が出てきました。
これについてはなかなかややこしいので、もう少し深く見ていこうと思います。
厚生労働省は上述の通り、「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」であると示しています。
しかし、医療というのは医師とその周辺職種も深く関わるものですから、境界線上の業務を事実上どう取り扱うかが問題となってきます。
厚生労働省は上述の通知にて、「ある行為が医行為であるか否かについては、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある。」としています。
そして、実際の業務の該当性に関する厚生労働省の判断は、事例で示されたり、現実の現場からの照会に答える形で示されている場合があります。
以下は一部です。
さて、これまで立法と行政を見てきましたので、司法は「医業」「医行為」をどう捉えているのかも見てみましょう。
最高裁は医行為について下記のように示しています。
(本件はタトゥー施術行為の医行為該当性が争われたもので、最高裁決定は「社会通念に照らして,医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く,医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為には当たらない。」としています。)
1 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為とは,医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいう。
「医師法違反被告事件」令和2年9月16日最高裁判所第二小法廷決定, 刑集第74巻6号581頁, https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89717
2 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に当たるか否かは,行為の方法や作用のみならず,その目的,行為者と相手方との関係,行為が行われる際の具体的な状況,実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で,社会通念に照らして判断するのが相当である。
こちらには補足意見が付されており、こちらも重要。
すなわち、「医療及び保健指導に属する行為ではない」が「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」には傷害罪の成立の可能性があるということであると私は解しています。
(裁判官草野耕一氏の補足意見)
最後に,タトゥー施術行為は,被施術者の身体を傷つける行為であるから,施術の内容や方法等によっては傷害罪が成立し得る。
医師法違反被告事件」令和2年9月16日最高裁判所第二小法廷決定, 刑集 第74巻6号581頁, https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89717
これまでお伝えしたのは、あくまで大枠です。
医療には複数の資格者が関与することもあり、各業務の独占範囲などは非常にややこしい事になっています。
医師の働き方改革も進められていくことですし、静脈注射が看護師等の「診療の補助」の範囲内と改革されたように、今後業際は変更されていくでしょう。
先日新型コロナウイルスの抗原検査キットのスイッチOTC化のガイドラインが示されました。検体の採取ができる資格者にも変化が出てくるのかもしれません。
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