医療資格者の業務範囲を整理してみる (1)医師
本シリーズ、まずはスーパースター、医師から行きます。
他の職種ページへの移動は、本シリーズの「0(前提)」ページにリンクを置いてありますのでそちらから。
(1)医師(医業)
身分の根拠法
第一条 医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。
医師法(昭和二十三年法律第二百一号), (令和四年法律第四十七号による改正), https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000201, (閲覧2022−08−17)
医師は医療関連行為を提供する側の中で最強の存在です。「医療及び保健指導を掌」ってるのですから。ヒエラルキートップ。
その身分の根拠法は「医師法」です。
業務
まずは図で大枠を見ましょう。
本シリーズの「0(前提)」で紹介した厚労省作成の図を簡略化し、いくつかの要素を追加した上で、医師の業務範囲等を書き込んだ図を作成しました。
- 医師は①医業を業務独占します(第17条)。②医行為の中の他職種の業務独占範囲も当然行うことができ、③その他、他職種の独占業務も行うことができます。
①業務独占:医業
第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
医師法(昭和二十三年法律第二百一号), (令和四年法律第四十七号による改正), https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000201, (閲覧2022−08−17)
医師は、医師法17条にある通り、「医業」を行える唯一の職種です。業務独占の根拠条文は医師法第17条。
★「医業」とはなにか
「医業」とはざっくりいうと「医行為」を業とすることです。
もうちょっと丁寧に説明していきます。
実は「医業」の定義は法律には示されていません。
が、医師法を所轄する行政庁である厚生労働省は、下のような解釈を示しています。よってこれに倣うのが一般的かと思います。
※厚生労働省は複数の発出通知や作成資料にて、この解釈を示していますが、内容は同一ですので、ここには一つだけ引用します。
この「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」平成17年7月26日医政発第0726005号 各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2895&dataType=1&pageNo=1(閲覧2022−08−17)
で、この「医行為」をもうちょっと具体的に!となっちゃいますよね。私はなりました。
というわけで、以下に厚労省と最高裁が示しているものについて記載しておきます。
★「医行為」とはなにか(厚労省)
じゃあ、医療関連行為の中で「医行為」とはなにか、という話になるわけですが、
明確に線引できるものではないので、厚生労働省も先述の通知内で「個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある。」としています。
で、実際厚労省が事例を提示したり、個別に照会があれば回答したりしています。
医行為
以下は一部です。
- 「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」平成17年7月26日医政発第0726005号 各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2895&dataType=1&pageNo=1
- 「ストーマ装具の交換について」平成23年7月5日医政医発0705第3号 各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局医事課長通知, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb7471&dataType=1&pageNo=1
- 「処方せん発行の疑義に関する件」 昭和二四年二月医収第二〇八号 石川県知事あて厚生省医務局長回答https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta0957&dataType=1&pageNo=1
- 「インシュリンの自己注射について」昭和五六年五月二一日医事第三八号 各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省医務局医事課長通知, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta0948&dataType=1&pageNo=1
- 「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」平成13年11月8日医政医発第105号 各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局医事課長通知, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6731&dataType=1&pageNo=1
- 「検体測定室における一連の採血行為での医行為に該当する部分について」平成27年8月5日事務連絡各検体測定室運営責任者あて厚生労働省医政局地域医療計画課通知, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc1171&dataType=1&pageNo=1
- 「教育・保育施設等におけるてんかん発作時の坐薬挿入に係る医師法第17条の解釈について」平成29年8月22日 府子本第683号,29生社教第10号,医政医発0822第1号,子保発0822第1号,子子発0822第1号内閣府子ども・子育て本部参事官,文部科学省生涯学習政策局社会教育課長,厚生労働省医政局医事課長,厚生労働省子ども家庭局保育課長,厚生労働省子ども家庭局子育て支援課長通知 https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/592169_5001369_misc.pdf
★「医行為」とはなにか(裁判所)
最後に、司法が「医業」「医行為」をどう捉えているのかも見てみましょう。
最高裁は医行為について下記のように示しています。
(本件はタトゥー施術行為の医行為該当性が争われたもので、最高裁決定は「社会通念に照らして,医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く,医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為には当たらない。」としています。)
1 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為とは,医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいう。
2 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に当たるか否かは,行為の方法や作用のみならず,その目的,行為者と相手方との関係,行為が行われる際の具体的な状況,実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で,社会通念に照らして判断するのが相当である。
「医師法違反被告事件」令和2年9月16日最高裁判所第二小法廷決定, 刑集第74巻6号581頁, https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89717
こちらには補足意見が付されており、こちらも重要。
(裁判官草野耕一氏の補足意見)
医師法違反被告事件」令和2年9月16日最高裁判所第二小法廷決定, 刑集 第74巻6号581頁, https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89717
最後に,タトゥー施術行為は,被施術者の身体を傷つける行為であるから,施術の内容や方法等によっては傷害罪が成立し得る。
すなわち、「医療及び保健指導に属する行為ではない」が「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」には傷害罪の成立の可能性があるということであると私は解しています。
②医行為の中の他職種の業務独占範囲
★診療の補助(看護師)
「診療の補助」が何かについては、当シリーズの「(5) 看護師、准看護師」のところで説明します。
本ページの「業務」のところに貼り付けた図に示したように、保助看法で看護師に医行為の一部を限定解除しているだけで、本来医行為は医師の業務独占です。
医療関連行為は広範に渡り、医師だけの存在では成り立たないため、各専門の資格者たちに各専門分野に限り限定解除することで、医師を頂点としたチーム医療を形成しているわけです。
よって、診療の補助とされている範囲の業務を、医師が行うことは当然に可能です。
★助産(助産師)
厚生労働省は、助産は医業であり、医師が助産を行うことは可能、とする見解を見せています。
よって、助産を医師が行うことは可能とされています。
もうちょっと詳しくは、当シリーズの「(4) 助産師」のところで説明します。
★放射線照射(診療放射線技師)
放射線照射は、診療放射線技師法にて、医師、歯科医、診療放射線技師の業務独占である旨示されてとされていますので、当然に医師が行うことは可能です。
もうちょっと詳しくは、当シリーズの「(6) 診療放射線技師」のところで説明します。
③その他の業務
医師ができる医療関連行為を挙げていたら切りがないので、2つだけ。
その他、医療従事者間の具体的な業務分担については、厚労省の役割分担通知を本シリーズの「0(前提)」ページでかるーく紹介していますが、現在進行系でタスクシフト・タスクシェアが進んでますので最新の状況は都度要確認です。
★調剤(薬剤師)
医師による自己調剤は、薬剤師法により条件を満たせば可能という事になっています。
法の立て付け上は無条件で院内処方できるわけではないんですねぇ…。
もうちょっと詳しくは、当シリーズの「(2) 薬剤師」のところで説明します。
★保健指導
保健指導は、保健師その他の独占業務ではないため、もちろん医師が行うことができます。
もうちょっと詳しくは、当シリーズの「(3) 保健師」のところで説明します。
名称独占
医師法18条に名称独占の定めがあります。
第十八条 医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。
医師法(昭和二十三年法律第二百一号), (令和四年法律第四十七号による改正), https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000201, (閲覧2022−08−17)
今日はここまでにします。次は(2)薬剤師を予定しています。
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