【法人設立ポイント解説】ベンチャーのための戦略的会社設立ガイド#2 医療機器・SaMD開発編

【法人設立ポイント解説】ベンチャーのための戦略的会社設立ガイド#2 医療機器・SaMD開発編

はじめに:EXITを目指すなら、なぜ「株式会社」一択なのか?

医療機器やSaMD(Software as a Medical Device)といった革新的な「モノづくり」でヘルスケア分野に挑むベンチャー企業。その多くは、多額の研究開発資金を必要とし、将来的にVC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達や、IPO(株式上場)・M&AによるEXITを目指す事業モデルを描いています。

このような**「外部資金を調達して急成長を目指す」という戦略を選択するならば、設立する法人の形態は「株式会社」一択**であると言って過言ではありません。

なぜなら、株式会社は以下のような、他の法人形態にはない決定的なメリットを持つからです。

  • 資金調達の柔軟性: 新株を発行して出資を募る「増資」が容易であり、VCなどからの大規模な資金調達に対応できます。
  • ストックオプションの発行: 優秀な人材を確保するためのインセンティブとして、新株予約権(ストックオプション)を発行できるのは株式会社の大きな魅力です。
  • 社会的信用度: 外部の投資家や金融機関、取引先からの信用度が最も高い法人形態です。

今回は、そんな医療機器・SaMD開発ベンチャーが株式会社を設立する際に、将来の事業展開を見据えて押さえておくべき、戦略的な「定款設計」のポイントを解説します。

ポイント1:「事業目的」は薬機法と将来の許認可を読み解いて設計する

定款作成で最も重要なのが「事業目的」の記載です。特に、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の規制対象となる事業では、将来取得する許認可から逆算して、文言を正確に設計する必要があります。

「製造」と「販売」と「製造販売」の違いを理解する

薬機法では、製品を市場に出すために、役割に応じた許認可が必要です。

  • 製造業許可: 製品を「作る(設計・組み立て・製造)」ための許可。
  • 販売業・貸与業許可: 完成した製品を「最終ユーザーに販売・レンタルする」ための許可。
  • 修理業許可: 医療機器を「修理する」ための許可。製造とは別に、専門の許可が必要です。
  • 製造販売業許可: 作られた製品の品質や安全性に最終的な責任を負い、市場に出荷するための許可。これが事業の司令塔となります。

ベンチャーの多くは、自社で研究開発と設計を行い、製造は外部の工場に委託し、自社は「製造販売業」許可を取得して市場に製品を出す、というモデルを取ります。

したがって、定款の事業目的には、単に「医療機器の開発」と書くだけでなく、「医療機器の製造販売」といった、将来取得する許認可の名称を正確に記載しておくことが極めて重要です。

ポイント2:「株式」に関する規定で、資金調達と経営権をコントロールする

EXITを目指すベンチャーにとって、株式に関する規定は生命線です。

株式譲渡制限を必ず設ける

これは、株式を第三者に譲渡する際に、会社の承認(通常は取締役会や株主総会)を必要とする定めです。これにより、知らないうちに経営に好ましくない株主が生まれるのを防ぎ、経営の安定性を保ちます。VCも、投資先企業の株式が安易に分散することは望みません。

種類株式の発行を可能にしておく

定款で「種類株式発行会社」である旨を定めておくと、普通株式とは異なる権利を持つ株式(種類株式)を発行できるようになります。例えば、以下のような活用が考えられます。

  • 議決権制限種類株式: 議決権がない代わりに、配当を優先的に受けられる株式。経営には口出ししてほしくないが、資金は提供してほしい、という投資家向けに発行します。
  • 取得条項付株式: 一定の事由が生じた場合に、会社が株主から株式を強制的に取得できる株式。将来のM&Aなどをスムーズに進めるために設計されることがあります。

VCからの資金調達ラウンドでは、投資家保護の観点から種類株式の発行を求められることが一般的です。設立当初から発行の可能性を定款に盛り込んでおくことで、将来の資金調達をスムーズに進めることができます。

ポイント3:「役員」と「機関設計」で、意思決定のスピードとガバナンスを両立する

創業期のベンチャーはスピードが命です。しかし、外部から出資を受ける以上、経営の透明性(ガバナンス)も同時に求められます。

創業期はシンプルな機関設計でOK

設立当初は、取締役1名からでも株式会社は設立できます。まずはシンプルな体制でスタートし、会社の成長フェーズや資金調達のラウンドに応じて、取締役会を設置したり、監査役を置いたりといった形で機関設計を変更していくのが現実的です。

ストックオプション(新株予約権)の発行根拠を定款に

優秀なエンジニアや経営メンバーを惹きつけるために、ストックオプションは強力な武器になります。将来、株主総会の特別決議でストックオプションを発行できるよう、その発行枠や条件に関する基本的な規定を、設立時の定款に盛り込んでおくことをお勧めします。

まとめ:未来から逆算する定款が、ベンチャーの成長を加速させる

医療機器・SaMD開発ベンチャーの定款は、単なる設立書類ではありません。それは、将来の資金調達、許認可取得、そして最終的なEXIT戦略までを見据えた「事業の設計図」です。

設立時にどれだけ未来を解像度高く描き、それを法的な文書に落とし込めるかが、その後の成長スピードを大きく左右します。私たち行政書士は、薬機法をはじめとするヘルスケア分野の法規制と、ベンチャーの成長戦略の両方を理解し、あなたのビジョンを形にするための最適な定款作りをサポートします。最初の設計図作りで迷われた際は、ぜひ一度ご相談ください。

お気軽にご相談ください。

  • 初回相談は無料です。
  • 行政書士には秘密保持の義務が課せられております。
  • フォームに入力されたメールアドレス以外に、当事務所から連絡差し上げることはいたしません。