補助金採択を「無駄」にしないために|ヘルスケア企業が薬機法で躓かないための3つの鉄則

行政書士の大串です。

フェムテックを含むヘルスケア・スタートアップにとって、経済産業省の「ものづくり補助金」やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援基金」、さらに経済産業省が推進する「女性活躍のためのフェムテック開発支援・普及促進事業」や「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」といった公的支援は、事業を加速させる強力なエンジンとなり得ます。しかし、これらの補助金活用において、多くの経営者が陥りがちな「落とし穴」があります。

それは、「補助金の採択」と「薬機法等の許認可戦略」を切り離して考えてしまうことです。

現在の補助金審査・管理体制においては、「重大な法律違反をしていないこと」といったコンプライアンス要件が設定されていることが一般的となっており、その実効性が厳格に評価されます。法規制への理解不足は、単なる審査落ちだけでなく、最悪の場合、受給した補助金の「全額返還」や「数年間の指名停止」を招き、スタートアップ生命を絶つことにもなりかねません。

本稿では、補助金採択を確実に「無形資産」へと変えるための、薬機法と連動した3つの鉄則を解説します。

鉄則1:設立段階から「許認可」を逆算した定款・資本金設計を行う

補助金(資金)、許認可(権利)、事業成長(実務)が相互に連動する「戦略的成功の正三角形」の図解。
ヘルスケア事業の成功は、補助金・許認可・事業成長の3つが高い次元で調和して初めて実現します 。

「まずは会社を作って、補助金をもらってから製品の許認可を考えよう」——このような後追いの考え方が、後々の大きなタイムロスと追加コストを生みます。

「目的」の不備は許可申請の足かせに

将来、医療機器製造販売業や化粧品製造販売業の許可取得することを想定している場合、法人の定款(事業目的)にその旨を適切に記載しておく必要があります。補助金申請時に提出する履歴事項全部証明書に記載されている目的と、事業内容とが乖離している場合、事業の継続性や専門性に疑義を持たれて審査に悪影響となるリスクがあります。

財産的要件(資本金)の戦略的設定

許認可の中には、人的要件だけでなく、一定以上の基準を満たす財産的基礎(純資産額など)を求めるものがあります。設立時にこれを見据えた資本設計を行うことは、補助金審査における「事業実施の蓋然性」の強力なエビデンスとなります

鉄則2:事業計画書に「法規制クリアのロードマップ」を明文化する

試作開発から製品化、薬事承認取得までの具体的なステップをタイムラインで示した「薬事ロードマップ」の例。
具体的な規制クリアのステップを明文化することで、審査員に対し事業の「実現可能性」を強力に証明します 。

補助金審査において、特にフェムテック・ヘルスケア分野で必ず注視されるのは、技術の先進性以上に「その製品は本当に法的に販売可能なのか」という実現可能性です。

これは、多くの補助金の採択基準に設けられている「技術的・事業的実現可能性(フィジビリティ)」の項目において、法規制のクリアが事業化の前提条件となっているためです。薬事承認や認証の見込みが立たない計画は、どれほど革新的な技術であっても「事業化の目途が立たない」として評価が著しく低下します。

特に「フェムテック等サポートサービス実証事業」のように、サービスの実証を主眼に置く場合でも、提供するデバイスや検査キットの薬事該当性は押さえておくべきポイントです。これは、各補助金の「公募要領」において関係法令の遵守が必須要件とされていることに加え、行政(事務局)側が「未承認医療機器の販売」といった違法状態にある事業に公金を投じるリスクを回避するために、審査側はそういった背景事情を重視することが考えられうるからです。

審査員を安心させる「薬事ロードマップ」

事業計画書の中で、「試作開発」から「製品化」までの間に、どのようなステップで薬機法等の該当性判断を行い、承認・認証を取得するのかをタイムライン上で具体化してください。

専門家関与の証跡

専門家(行政書士等)による事前相談の記録があることや、認証機関(登録認証機関等)への打診状況が盛り込まれている計画書は、審査において「規制リスクを制御できている」と高く評価されるポイントとなるでしょう。

2026年改正薬機法への対応

2026年には、2019年改正薬機法の「5年見直し」に伴う運用基準の変化も予想されます。これら最新の法規制動向をあらかじめ計画に織り込み、「規制リスクを織り込み済みである」という姿勢を示すことが、採択を引き寄せる鍵となります。

鉄則3:補助金適正化法が定める「交付取消・返還」のトリガーを理解する

法令違反による補助金返還・指名停止リスクと、専門家による「事前の該当性判断」という防衛策の対比図。
重大な法令違反は、補助金の返還だけでなく「数年間の指名停止」という致命的な経営リスクを招きます 。

補助金は「もらったら終わり」ではありません。受給後こそ、リーガルコンプライアンス(法令遵守)の真価が問われます。

補助金適正化法第17条等のリスク

事業者に法令違反があった場合は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(通称:補助金適正化法)」第17条、第18条に基づき、交付決定の取消しや、既に交付された補助金の返還が命じられることがあります。

「委託先管理の不備」が招く重層的なリスク

近年の景品表示法におけるステルスマーケティング規制の強化により、広告主(事業者)の委託先管理責任が厳格に問われています。

事業者が注意すべきは、公的資金を扱う補助金事業においては、景品表示法違反は「重大な不適当な行為」とみなされ、交付決定の取り消しや返還リスクを十分に負うという点です。

さらに、これが薬機法の領域にまで波及し、アフィリエイター等の不適切な投稿により「未承認医療機器の広告・販売」と認定された場合、その違法性は極めて重く判断されます。結果として、社会的な信用の失墜のみならず、補助金適正化法上の「重大な法令違反」として、返還義務に加え、「数年間の指名停止措置」という致命的なリスクに直結する可能性が飛躍的に高まります。

指名停止は死を意味する

指名停止措置を受けたという事実は原則として公表されますので、他の公的支援、公募案件からの排除を招きます。そしてこれはVC等からの資金調達においても、デューデリジェンスにおける致命的な欠陥となり得ます。

専門家による「事前の該当性判断」が最強の防衛策

「自社の製品が医療機器にあたるのか」「広告表現のどこまでが許されるのか」、そして「広告を委託するならば、委託先をどう管理しなくてはならないのか」について、専門的なエビデンスを保持しておくことは、経営を揺るがす補助金返還リスクに対する最大の防御です。

まとめ:顧問行政書士と描く、補助金・許認可・成長の正三角形

ヘルスケア・スタートアップの成功は、「補助金(資金)」「許認可(権利)」「事業成長(実務)」の3つが高い次元で調和して初めて実現します。

これらを個別に検討するのではなく、設立時から一気通貫で設計できるのが行政書士の強みです。2026年の改正行政書士法施行により、我々は単なる「代書人」から、貴社のコンプライアンス・ガバナンスの設計、さらには行政との高度な交渉を担う「法務の伴走者」へと役割を広げています。

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補助金を活用して世界を変える製品を世に出そうとしている経営者の皆様。法規制を「障壁」として捉えるのではなく、競合が容易に真似できない「強固な参入障壁」へと変える戦略を、共に描いてまいりましょう。

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