【経営者向け】「除菌雑貨」はもう売れない?アルコールビジネスの生存戦略と「物品消毒」解禁の30年史

市場から「なんとなく」が消える日

2024年(令和6年)6月30日。この日付が持つ重みを、どれだけの事業者が正確に理解しているでしょうか。パンデミックによる供給逼迫に対応するため、国が特例的に認めていた「高濃度エタノール製品(雑貨・酒類)」の手指消毒への転用措置が、この日をもって完全廃止されました[1]。

これにより、アルコール消毒剤市場は「平時」に戻りました。しかし、それはコロナ前の状態に戻ったのではありません。
なぜなら、国は2023年に「物品の消毒」を正式に医薬部外品として認めるという、歴史的なルール変更を行っているからです[2]。
「正規の承認品(医薬品・医薬部外品)」と、効能を一切謳えない「ただの雑貨」との間には、もう明確に線引きがなされています。

「うちは人体へ使用するものじゃないから大丈夫。」その認識は、もはや経営リスクなのです。

本記事では、30年に及ぶ「殺菌・消毒」という言葉をめぐる規制の歴史を紐解きながら、これからのアルコールビジネスで生き残るための戦略について解説します。


【歴史に学ぶ】なぜ「消毒」と言ってはいけないのか?~30年の規制史~

「効果があるのに、なぜ『消毒』と言ってはいけないのか?」

この素朴な疑問の答えは、過去の行政通知と規制の変遷の中にあります。これは、国と事業者による「言葉遊びのいたちごっこ」の歴史でもありました。

アルコール消毒規制30年の変遷タイムライン。昭和46年(46通知・原則禁止)、平成5年(実務連絡・除菌容認)、平成22年(監視強化)、令和5年(物品用医薬部外品新設)の4フェーズ解説図。
なぜ「消毒」と言ってはいけなかったのか?国と事業者の30年にわたる「言葉のいたちごっこ」と、令和5年の歴史的転換点。

Phase 1:原則禁止の時代(昭和46年~)

すべてはここから始まりました。

昭和46年に通称:46通知[3]が発出されました。
この通知は、人が経口的に服用するものについて、医薬品とそうでないもの(食品)の区別をするための判断基準を明示したもので、現在でも有効なものです。
この通知にて、医薬品的な効能効果を標ぼうしたものは医薬品であると示されています。

そしてこの通知の示すところに基づき、病原菌への効果を標榜すること、感染予防目的で「殺菌」「消毒」を謳うことができるのは医薬品のみと解釈され、運用されています。
なお、この頃すでに医薬部外品というカテゴリはあり(昭和35年に新設)、正規に「殺菌・消毒」を訴求できる薬用石鹸やうがい薬などがありましたが、物品への使用を意図したものは有りませんでした。

Phase 2:言葉の綾の時代(平成5年~)

20年ほどが経過する中で、一般市場向け製品に対して、菌に対する効果をなんとか訴求したいという要望が高まったのかもしれません。
平成5年に監視指導実務連絡が出され[4]、ここで「家庭内の床、家具等に使用されるもので、抗菌、除菌効果のみを標ぼうするもの」であれば、医薬品には該当しない(=雑貨として売ってよい)という運用ルールが示されました。

この文書では、「なお、殺菌、消毒の効果を標ぼうしないよう指導すること」となお書きされています。
行政の意図はともあれ、ここで「物品への使用についても『殺菌』『消毒』と言ったらアウト。『抗菌』『除菌』と言い換えるならセーフ」という、奇妙なバランスの上に成り立つ言葉遊びが形成されました。

Phase 3:グレーゾーンの拡大(平成22年~コロナ禍)

「殺菌」と言えないメーカーは、薬機法規制を受けない雑品として流通させるため、こぞって「除菌」「ウイルス除去」という造語をパッケージに掲げるようになりました。この「除菌ブーム」は、消費者に「除菌も消毒も似たようなもの」という誤解を与えました。その結果、科学的根拠の乏しい「空間除菌剤」なども市場に氾濫しました。一方で、消毒用エタノールと同等の効果を持つ製品を作っているメーカーも、物品への使用を目的とする場合には正規に「消毒効果を訴求する方法がない」という「ねじれ現象」が続きました。作れるけれど、承認通すのはハードル高すぎってやつですね。

Phase 4:正常化の時代(令和5年~現在)

コロナ禍の混乱を経て、国はついに動きました。「効果のある成分を使った製品は、正規ルート(医薬部外品)に誘導し、それ以外と明確に区別する」この方針転換こそが、2023年(令和5年)の「物品の消毒・殺菌」医薬部外品の新設です[2]。

これは、「実績のある成分(エタノール等)なら、手続きを踏めば『消毒』と言わせてやる。逆に、手続きをしない雑貨は、今後絶対に『消毒』とは言わせない」という、明確なメッセージですね。


「除菌雑貨」から脱却し、「医薬部外品」へ進むべき理由

この歴史的背景を踏まえれば、今後の経営戦略は自ずと明らかです。もはや「雑貨のまま、なんとなく売る」という選択肢の未来は、ちょっとぼんやりしています。

1. 圧倒的な「言葉」の力

雑貨製品が使える表現は「除菌」「清浄」「拭き取り」が限界です。一方、医薬部外品の承認を取得すれば、堂々と「消毒」「殺菌」をパッケージや広告で標榜できます。病院、介護施設、官公庁、学校といったBtoB市場では、「除菌剤(雑貨)」の採用基準が厳格化しています。「消毒」と明記された承認品でなければ、入札の土俵にすら上がれない時代が来ています。

経営判断用:除菌雑貨(雑品)と物品用医薬部外品のメリット・デメリット比較表。効能表現(除菌vs消毒)、入札参加資格、法的リスクの違い一覧。
アルコール消毒ビジネスの市場競争マップ。左側の「手指用消毒剤(人体用)」は競合がひしめくレッドオーシャン。右側の新設された「物品用消毒剤(医薬部外品)」は、2023年に解禁されたばかりのブルーオーシャンであり、先行する船が利益を独占できる機会を描いている。

2. ブルーオーシャンへの先行者利益

現在、市場には「手指消毒用」の製品は溢れていますが、「物品(家具・器具)消毒用」の医薬部外品は、まだ圧倒的にプレイヤーが少ない状況です。2023年に解禁されたばかりのこの新カテゴリーにいち早く参入することで、「家具用消毒剤のパイオニア」としての地位を確立できる可能性があります。

3. コンプライアンス・リスクの遮断

特例廃止以降、雑貨品に対する広告監視(薬機法、景表法)は強化されています。いつ「措置命令」や「指導」が来るか怯えながらビジネスをするコストと、承認を取得して堂々と展開するコスト。長期的に見てどちらが合理的かは明白です。

雑貨ビジネス(BAD)と医薬部外品ビジネス(GOOD)の対比図。左側の雑貨領域は嵐の中にあり、「除菌・洗浄」の札しか持てない。右側の医薬部外品領域は堅牢な城であり、「消毒・殺菌」の鍵(承認)を持つことで、病院・学校・官公庁への入札資格(パスポート)を獲得している様子。

参入への道筋:新設「物品用医薬部外品」とは?

では、具体的にどのような製品であれば「物品用」として承認されるのでしょうか。令和5年の通知によれば、対象となるのは「家具、器具、物品、哺乳瓶、食器、室内、浴室、便所」などの消毒です。

ただし、承認には厳格なルールがあります。

  • 成分: 一般用医薬品で配合実績のある成分(エタノール、ベンザルコニウム塩化物等)に限る。
  • 濃度: 人体用医薬品よりも「低い濃度」でなければならない。
  • 用途: 医療機器(メス等)の消毒は対象外。

「効果はあるが、人体用ほど強くない」という絶妙な製品設計が求められます。


[まとめ] 行政書士による「戦略的法務」の提案

殺菌消毒ビジネスは、30年の歴史の中で最も大きな転換点を迎えています。これからは、「法的な承認を得ていること」そのものが商品価値となる時代です。

当事務所では、単なる書類作成代行だけでなく、「貴社の製品が物品用医薬部外品の承認基準を満たせるか」の事前診断から、製品コンセプトの設計支援まで、薬事コンサルティングを提供しています。

「雑貨」から「部外品」へ。ビジネスのステージを上げる決断をされた経営者様からのご相談をお待ちしております。

脚注

  1. "令和5年6月30日事務連絡「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う消毒用エタノール関連事務連絡の廃止について」". 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001117939.pdf(参照2026-01-06)
  2. "令和5年4月28日厚生労働省告示第181号". 厚生労働省
  3. "昭和46年6月1日薬発第476号「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」". 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6938&dataType=1&pageNo=1(参照2026-01-06)
  4. 平成5年11月19日厚生労働省薬務課監視指導課監視指導実務連絡93-1

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