【医療機器ポイント解説】「製造販売業」と「製造業」の違いを解説

【医療機器ポイント解説】「製造販売業」と「製造業」の違いを解説
はじめに
医療機器ビジネスの許認可を調べる際、「製造販売業許可」と「製造業登録」という二つの言葉が出てきます。これらは名前が似ているため混同されがちですが、法律上の役割、責任、そして必要な手続きは全く異なります。特に、自社で工場(Fabrication facility)を持たないファブレス企業(fabless)や、製造を専門に行うOEM企業(Original Equipment Manufacturing)など、多様なビジネスモデルを考える上で、この違いを正確に理解することは不可欠です。本記事では、この二つの業態の違いを明確に解説します。
1. 製造販売業とは? - 市場への「最終責任者」たる元売り業者
まず注意が必要なのは、「製造販売業」は「製造業」と「販売業」を行う業態ではない、ということです。
「製造販売業」とは、医療機器を日本国内市場に出荷する業者(元売り業者)を指す言葉で、製品の製造行為も、消費者への販売も行いません。その代わり、製造業者の管理監督を含め、製品の設計開発から製造管理・品質管理、そして市販後の安全管理(GVP)に至るまで、製品のライフサイクル全てに対する最終的な責任を負います。許可を受けた製造販売業者のみが、医療機器を市場で流通させるための承認及び認証の申請並びに届出を行い、その製品を流通させることができるのです。
2005(平成17)年の薬事法改正(当時)でこの「製造販売業」が新設されるまでは、これらの責任は「製造業」が負っていました。しかし、法改正により、市場への責任者が明確に分離されたのです。
2. 製造業とは? - モノづくりの「専門家」
「製造業」と聞くと、組立や試験といった工程をイメージしがちですが、薬機法における製造行為はそれだけではありません。医療機器分野では製品の設計、開発、滅菌、日本語ラベルの貼付、最終製品の保管なども製造行為に含まれ、これらを行うには「製造業登録」されていることを要します。
かつてはこの「製造業」が、承認申請を行い、医療機器を市場へ出すまでの全責任を負っていました。しかし、2005(平成17)年の薬機法改正施行により、責任を負う役目は新設された「製造販売業」に渡され、製造業者は表に出ずにモノづくりそのものに注力するしくみとなりました。製造販売業者は、国内外の様々な製造業者に製造を柔軟にアウトソーシングできるようになったのです。
また、以前は「許可制」でしたが、2014(平成26)年からは「登録制」へと手続きが緩和されています。
- ポイント:製造と修理の関係 医療機器の修理には本来「修理業」の許可が必要ですが、「製造業者」は、自ら製造した製品を修理することができます(製造工程のうち設計や最終製品の保管のみを行う製造業者を除く)。
3. ビジネスモデル別!必要な許可・登録の組み合わせ
この二つの違いを、具体的な事業モデルで見てみましょう。
- ケース①:自社ブランドの製品を、自社工場で作る
- 必要なもの: 「製造販売業許可」+「製造業登録」
- 解説:市場への責任者として、またモノづくりの担い手として、両方が必要です。
- ケース②:製品の企画・製造販売のみを行い、製造は他社に委託するファブレス企業(製品責任もこの企業が負う)
- 必要なもの: 自社は「製造販売業許可」のみ
- 解説:市場への責任は自社が負います。製造を委託する先であるパートナー工場は「製造業登録」が必要です。
- ケース③:製品の企画のみを行い、製造販売は他社に委託するファブレス企業
- 必要なもの: 自社は業許可不要。製造販売を委託する先であるパートナー企業は「製造販売業許可」が必要です。
- 解説:市場への責任は自社が負います。製造を委託する先であるパートナー工場は「製造業登録」が必要です。
- ケース④:他社ブランドの製品を専門に製造するOEM工場
- 必要なもの: 「製造業登録」のみ
- 解説:モノづくりに特化し、自社ブランドで市場に製品を出さないため、製造販売業許可は不要です。
4. PL法(製造物責任法)との関係 - 最終責任は誰が負うのか?
製造販売業者と製造業者。この二つの業態の違いは、製造物の欠陥により消費者が被った被害を製造事業者が賠償することを目的として、民法の不法行為責任の特別法として平成6年に制定されたPL法(製造物責任法)における議論でも無視することは出来ません。
PL法では、損害賠償責任を負う者を「製造業者等」と定義しており、これには実際に製品を製造した者に加え、自社の名前などを表示した「表示製造業者」も含まれます。つまり、製造を100%外部に委託していても、製品の欠陥で事故が起きた場合にはPL法上の責任もまた問われることとなるということです。
製造物責任法(平成六年法律第八十五号)
(定義)
第二条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。
2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
3 この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)
二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
三 前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者(製造物責任)
第三条 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。
字面だけ見て、「うちは製造業者ではないからPL法は関係ない」というのは大きな落とし穴です。薬機法上の責任と、PL法上の責任は矛盾するものではないことを押さえておきましょう。
まとめ:自社の役割を明確にし、適切な許可・登録を
「製造販売業」は市場と顧客に対する責任を負う司令塔、「製造業」は高品質な製品を生み出す現場です。自社のビジネスモデルにおいて、どちらの役割(あるいは両方)を担うのかを明確にすることが、適切な許認可手続きへの第一歩です。この違いを理解することで、事業提携や外部委託といった戦略も立てやすくなります。
貴社のビジネスモデルに必要な許可・登録がご不明な場合は、お気軽にご相談ください。

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