【法人設立ポイント解説】ベンチャーのための戦略的会社設立ガイド#4 訪問看護・介護事業編

【法人設立ポイント解説】ベンチャーのための戦略的会社設立ガイド#4 訪問看護・介護事業編
はじめに:地域包括ケアを支える事業の「器」選び
超高齢社会の日本において、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることを支える「地域包括ケアシステム」。その中核を担うのが、訪問看護や訪問介護といった在宅ケアサービスです。
これらの事業は、社会的な意義が非常に大きい一方で、事業を開始するためには介護保険法などに基づく**「指定事業者」としての許認可**が必須となります。また、その事業の原資の多くが公的な保険料や税金であるため、事業の透明性や信頼性が強く求められます。
そのため、訪問看護・介護事業の立ち上げにおいては、単に利益を追求するだけでなく、**「どのような理念で、地域にどう貢献していくのか」**という視点から、事業の器となる法人形態を慎重に選ぶことが極めて重要です。
今回は、訪問看護・介護事業を始める際の代表的な法人形態である「株式会社・合同会社」「NPO法人」「社会福祉法人」の3つの選択肢を、それぞれのメリット・デメリットと共に解説します。
ポイント1:「許認可」の要件から法人形態を考える
まず大前提として、訪問看護ステーションや訪問介護事業所として都道府県等から「指定」を受けるためには、個人事業主ではなく**「法人格」**を持っている必要があります。
指定を受けるための要件(人員基準、設備基準、運営基準)は、どの法人形態を選んでも同じです。しかし、申請の第一歩として、その法人が定款(または定款に準ずる規約)に、これから行う事業の内容を「事業目的」として明確に定めている必要があります。
例えば、定款の事業目的に「介護保険法に基づく訪問看護事業」といった記載がなければ、そもそも許認可の申請を受け付けてもらえません。つまり、法人設立の段階から、許認可取得というゴールを見据えた準備が不可欠なのです。
ポイント2:営利か非営利か?事業モデルで選ぶ3つの選択肢
では、具体的にどのような法人形態が考えられるのでしょうか。事業の理念や規模、将来の展望によって、最適な選択肢は異なります。
選択肢1:株式会社・合同会社(営利法人)
メリット:
- 設立がスピーディー: NPO法人などに比べて設立手続きが迅速で、事業開始までの時間を短縮できます。
- 意思決定の柔軟性: 経営判断を迅速に行え、事業展開の自由度が高いです。
- 資金調達の多様性: 金融機関からの融資を受けやすいほか、株式会社であれば増資による資金調達も可能です。介護保険外の自費サービスなど、事業の多角化も容易です。
デメリット:
- イメージ: 非営利法人に比べ、「利益優先」というイメージを持たれる可能性があります。
- 税制: 得られた利益には法人税が課税されます。
こんな方におすすめ:
- スピーディーに事業を立ち上げたい方
- 介護保険サービスに加え、多様な自費サービスなどを展開し、事業を拡大していきたい方
選択肢2:NPO法人(特定非営利活動法人)
メリット:
- 社会的信用度が高い: 「非営利」であることから、利用者やその家族、地域住民、行政などから高い信頼を得やすいです。
- 税制上の優遇: 収益事業から生じた所得のみが課税対象となるなど、税制上のメリットがあります。(※法人住民税の均等割は原則発生)
- 連携のしやすさ: 地域貢献という理念から、ボランティアの協力や、行政との協働事業などが進めやすい傾向にあります。
デメリット:
- 設立に時間がかかる: 所轄庁の「認証」が必要なため、設立までに半年近くかかる場合があります。
- 運営の制約: 毎年の事業報告書の提出義務があるほか、利益が出ても役員等に分配(配当)することはできません。
こんな方におすすめ:
- 地域への貢献や社会課題の解決を第一の目的として、事業に取り組みたい方
- 助成金や寄付金を活用しながら、安定した事業運営を目指したい方
選択肢3:社会福祉法人
メリット:
- 最も高い社会的信用: 設立・運営のハードルが非常に高い分、行政や地域からの信頼は絶大です。
- 大きな税制優遇: 法人税や固定資産税などが原則非課税となるなど、税制上のメリットが非常に大きいです。
デメリット:
- 設立・運営のハードルが極めて高い: 設立要件が非常に厳しく、所轄庁による厳しい指導監督下に置かれます。事業内容も社会福祉法に定められたものに限定されます。
こんな方におすすめ:
- 複数の福祉施設を運営するなど、大規模で安定した社会福祉事業の展開を考えている場合。新規の小規模な訪問看護・介護事業の立ち上げで選択されることは稀です。
ポイント3:定款の「事業目的」が指定申請の鍵を握る
どの法人形態を選ぶにせよ、繰り返しになりますが「事業目的」の記載は決定的に重要です。許認可を申請する際に、行政の担当者は定款を見て、その法人が法律に基づいて事業を行う意思と資格があるかを判断します。
定款には、以下のように、根拠法と事業内容を具体的に記載する必要があります。
- 「介護保険法に基づく訪問看護事業」
- 「介護保険法に基づく居宅介護支援事業」
- 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業」
これらの記載が漏れていると、定款の変更手続きと、それに伴う登記の変更が必要になり、時間も費用も余計にかかってしまいます。
【重要】自治体ごとの「ローカルルール」に注意! 法律は国が定めていますが、実際に申請を受け付け審査するのは都道府県や市区町村です。そのため、定款に記載すべき事業目的の文言について、自治体ごとに好まれる表現や解釈が若干異なる場合があります。手戻りを防ぐためにも、法人設立前に、事業所を開設予定の自治体の担当窓口へ事前確認を行うことが、スムーズな手続きの鍵となります。
まとめ:事業の理念を映す法人格を選び、確実なスタートを
訪問看護・介護事業における法人選びは、単なる手続きではありません。それは、あなたがこれから始める事業の**「理念」**を社会に示すための、最初の重要な意思決定です。
スピードと柔軟性を取るなら株式会社・合同会社。地域貢献と信頼を最優先するならNPO法人。そして、より大規模で安定した公的事業を目指すなら社会福祉法人。それぞれの特徴を理解し、あなたの事業が目指す姿に最も近い「器」を選びましょう。
私たち行政書士は、各種法人制度と許認可申請の両方に精通しています。あなたの事業理念に最適な法人形態の選択から、許認可を見据えたミスのない定款作成、そしてその後の指定申請までをサポートし、地域を支えるあなたの事業の確実なスタートをお手伝い致します。

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