【法人設立ポイント解説】ベンチャーのための戦略的会社設立ガイド#3 オンライン健康サービス編

【法人設立ポイント解説】ベンチャーのための戦略的会社設立ガイド#3 オンライン健康サービス編
はじめに:オンライン健康サービスになぜ「合同会社」や「有限責任事業組合」がフィットするのか?
テクノロジーの進化に伴い、オンラインでの健康相談、カウンセリング、食事指導、フィットネス指導など、医療機関の受診に至る前の「未病」領域を支えるヘルスケアサービスが急増しています。
これらのサービスの多くは、医師法や薬機法が定める「医療行為」や「医薬品の販売」には該当しないため、クリニック開設のような厳格な許認可は必要ありません。しかし、社会的信用を得たり、共同経営者とのルールを明確にしたりするメリットは非常に大きいと言えます。
このような、「許認可不要」で「専門家がスモールに始める」事業モデルにおいて、特に有力な選択肢となるのが「合同会社(LLC)」と「有限責任事業組合(LLP)」です。
今回は、この2つの選択肢について、そのメリット、設立時の重要ルール、そして事業モデルに応じた選び方のポイントを比較しながら解説します。
ポイント1:LLCとLLPに共通する「スモールビジネス向き」なメリット
なぜこの2つが有力な選択肢となるのか?それは、株式会社にはない、スモールビジネスに最適な共通のメリットを持っているからです。
1. 設立コストの低さとスピード
合同会社も有限責任事業組合も、株式会社に比べて設立時の費用を大幅に抑えることができます。
- 定款認証が不要: 株式会社では必須の、公証役場での定款認証(約5万円〜)が不要です。
- 登録免許税が安い: 設立登記の際に法務局へ納める登録免許税が、どちらも最低6万円からと安価です(株式会社は最低15万円〜)。
2. 自由度の高い内部ルール設計
合同会社では「定款自治」、有限責任事業組合では「組合契約」によって、法律の範囲内で内部のルールを自由に設計できます。
- 利益配分の自由度: 株式会社では利益の配当は出資額に応じて行われますが、LLCとLLPでは、出資額に関わらず、技術やノウハウの提供度、業務への貢献度などに応じて利益を分配することが可能です。
- 意思決定の柔軟性: 株主総会のような煩雑な手続きは不要で、出資者(社員・組合員)全員の同意でスピーディーに経営判断を下せます。
ポイント2:どこが違う?「法人格の有無」と「課税方式」
では、合同会社(LLC)と有限責任事業組合(LLP)の決定的な違いはどこにあるのでしょうか。それは「法人格」と「税金」です。
1. 法人格の有無:信用の「合同会社」、身軽さの「有限責任事業組合」
- 合同会社(LLC): 会社法に基づく「法人格」を持ちます。法人として契約の主体となったり、銀行口座を開設したりできます。社会的信用度や取引のしやすさの面では、法人格を持つ合同会社に分があります。
- 有限責任事業組合(LLP): 法人格を持たない「組合」です。契約などは組合名義で行えますが、法人格がないため、許認可の主体になれないなど、一部制約が生じる場合があります。
2. 課税方式:法人課税の「合同会社」、パススルー課税の「有限責任事業組合」
- 合同会社(LLC): 法人として利益を得るため、「法人税」が課税されます。
- 有限責任事業組合(LLP): 組合自体には課税されず、得られた利益が直接構成員に分配され、構成員が個人の所得として所得税を納税する「構成員課税(パススルー課税)」が適用されます。事業で損失が出た場合に、個人の他の所得と損益通算できるなど、税務上のメリットが大きくなる場合があります。
結論として、社会的信用を重視し、事業体として長期的な成長を目指すなら合同会社が、専門家同士の共同プロジェクトで、特に税務上のメリットを重視するなら有限責任事業組合が、それぞれ有力な選択肢となります。
ポイント3:定款・組合契約書は「仲間との契約書」。決めておくべき重要ルール
合同会社の「定款」、有限責任事業組合の「組合契約書」は、単なる設立書類ではなく、共同経営者間の「パートナーシップ契約書」としての役割を持ちます。後々のトラブルを避けるために、以下の点は必ず明確に定めておきましょう。
- 業務執行の権限: 誰が実際に業務の執行権を持つのかを定めます。
- 利益配分の具体的ルール: ポイント1で述べた利益配分について、その具体的な割合や決定方法を明記します。
- 脱退・持分(組合財産)譲渡のルール: 仲間の一人が事業を辞めたいと思った時、その持分等をどう扱うかを定めておきます。
ポイント4:最重要!「医療行為」との境界線を絶対に越えない
オンライン健康サービスを運営する上で、法的に最も注意しなければならないのが、自社のサービスが「医療行為」と見なされないようにすることです。
医師法では、医師でなければ医業(診断、治療、処方など)をしてはならないと定められています。たとえ医師がサービスを提供する場合であっても、厚生労働省が定めるガイドラインに準拠した「オンライン診療」のシステムと手続きを経なければ、遠隔での診断や処方はできません。
したがって、一般的なオンライン健康相談サービスは、以下の点を徹底する必要があります。
- 診断的判断の提供を避ける: 利用者の個別具体的な症状に対して、「あなたは〇〇という病気の可能性が高い」といった診断的な判断を伝えることはできません。
- 医薬品の推奨・販売は行わない: 特定の医薬品(市販薬含む)の使用を推奨したり、販売したりすることは薬機法に抵触する可能性があります。
- あくまで一般的な情報提供に留める: 健康に関する知識や、生活習慣の改善、一般的な予防法といった、あくまで一般的な情報提供やアドバイスに徹することが重要です。
この境界線を曖昧にすると、医師法違反に問われるリスクがあるだけでなく、利用者に健康被害を及ぼす可能性もあります。事業モデルの設計段階で、提供するサービスの範囲を法的な観点から慎重に検討することが不可欠です。
まとめ:自由度の高い器を、正しいルールで使いこなす
合同会社や有限責任事業組合は、オンライン健康サービスのような新しい形のビジネスにとって、低コストかつ柔軟で、非常に魅力的な「器」です。しかし、その自由度の高さを活かすも殺すも、最初に作る「定款」や「組合契約書」というルールブックにかかっています。
そして何より、ヘルスケアに関わる事業として、法律、特に医療行為との境界線を正しく理解し、遵守することが事業継続の大前提となります。
私たち行政書士は、あなたの事業モデルに最適な法人・組合形態の選択から、定款・組合契約書の作成、そして法的なリスクの洗い出しまで、安全な事業運営の基盤を築くお手伝いをします。自由で新しい挑戦を、確かな法的土台の上で始めてみませんか。

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