GQP・GVPの本質と実務 – 化粧品の品質と安全を保証する「仕組み」の徹底解説

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GQP・GVPの本質と実務 – 化粧品の品質と安全を保証する「仕組み」の徹底解説

(こちらは、本質やリスク管理を深く知りたい方向けの記事です)

化粧品ビジネスに必須の「GQP」と「GVP」。これらは、許認可のための複雑な規制、というイメージが強いかもしれません。しかし、その本質は、企業の信頼性、ひいては存続そのものを左右する、極めて重要な「品質保証の仕組み」にあります。

この記事では、単なる手順の紹介に留まらず、GQP・GVPが、製造現場のルールであるGMPとどのように連携し、機能するのか。その「相関関係」と、ビジネスを守るためのリスクマネジメントの考え方について、ご提供いただいた資料を基に、深く掘り下げて解説します。

Information

【この記事を読む前に】

「GQP・GVPという規制は、なぜ存在するのか?」「手順書を作るだけでなく、本当に機能する体制にするにはどうすればいい?」

この記事では、そんな疑問にお答えするため、GQP・GVPの法的な背景やGMPとの「相関関係」、そして近年の事故事例を踏まえたリスク管理の本質について、深く掘り下げて解説します。

なお、「まず何から手をつければいいか知りたい」「具体的な手順やチェックリストが欲しい」という方は、こちらの入門編である『GQP・GVP体制構築の教科書:具体的な手順とチェックリストで徹底解説』からお読みいただくことをお勧めします。

項目GQP・GVP体制構築の教科書
具体的な手順とチェックリストで徹底解説
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GQP・GVPの本質と実務
化粧品の品質と安全を保証する「仕組み」の徹底解説
(本コラムです)
主な目的How-To(やり方)の提供
GQP/GVP体制をゼロから構築するための、具体的な手順と作業項目を提示する。
Why(なぜ)の提供
GQP/GVPがなぜ必要なのか、その本質的な役割と法的な背景を深く解説する。
読者ターゲット実務担当者、新規参入者
「まず何から始めればいいか」「どんな書類が必要か」を知りたい方。
経営者、管理者、品質保証の責任者
「なぜこの業務が必要なのか」「どうすれば体制が形骸化しないか」を考えたい方。
内容の重点「手順」と「項目」の網羅
・GQP/GVP手順書に記載すべき具体的な項目のリストアップ
・体制構築のステップ・バイ・ステップの解説
・抜け漏れを防ぐためのチェックリスト
「相関関係」と「リスク管理」の解説
・GQP、GVP、GMPの三者の連携と役割分担
・クレーム対応など、具体的な事例で見るGQPとGVPの連携
・体制が形骸化するリスクと、「品質文化」の重要性
コラムで得られることGQP/GVP体制を構築するための具体的なタスクリストと作業手順がわかる。GQP/GVP体制を、ビジネスを守るための経営システムとして運用するための考え方がわかる。

なぜGQP/GVPが必要か?- 平成17年薬事法改正の意図

この仕組みの根幹を理解するには、平成17年(2005年)の薬事法改正に遡る必要があります。この改正によって、製品の市場に対する最終責任を負う**「製造販売業者」と、製品を実際に作る「製造業者」**の役割が法的に分離されました。

この「製販分離」により、製造販売業者は自社工場を持たなくても、製品の企画・販売に特化できるようになりました。しかしそれは同時に、自社の目が届きにくい外部の製造業者を、いかに管理監督して品質を保証するか、という新たな責任を生んだのです。 この、**製造販売業者が司令塔として製造業者を管理監督するための仕組みが「GQP」**であり、**市場に出た後の製品の安全に責任を持つための仕組みが「GVP」**なのです。

化粧品の品質保証を構成する3つの柱:GQP, GVP, GMPの相関図

化粧品の品質保証は、この3つの柱が連携することで成り立っています。

  • GQP (Good Quality Practice:品質管理基準) 製造販売業者の「品質保証の司令塔」です。 製造業者がGMPに基づき正しく製品を製造しているか管理監督し、最終的に市場へ出荷してよいかどうかの可否を判断する、極めて重要な役割を担います。
  • GVP (Good Vigilance Practice:製造販売後安全管理基準) 製造販売業者の「市販後の安全監視塔」です。 市場に出た製品について、お客様からの声(副作用情報など)を収集・評価し、安全性に問題がないかを見守り、必要に応じて迅速な対応(回収など)を行うための仕組みです。
  • 化粧品GMP (Cosmetics Good Manufacturing Practice:化粧品適正製造規範) 製造業者の「製造現場のルール」です。ただし、医薬品とは異なり、化粧品においてGMPは法律で定められた製造業の許可要件ではありません。国際規格である**「ISO 22716」**が化粧品GMPのガイドラインとして広く知られており、多くの製造業者がこの規格に沿って品質管理を行うなど、業界の自主的な取り組みとして定着しています。 GQPは、この製造業者の化粧品GMPが適切に運用されているかを確認する役割も持ちます。

これら3つは、「GVP(市場からの声)→ GQP(司令塔での評価・指示)→ GMP(製造現場での改善)」、あるいは**「GMP(製造現場での逸脱)→ GQP(司令塔での出荷判断・指示)→ GVP(必要に応じた市場での安全確保措置)」**というように、常に情報をやり取りし、連携することで機能する一つの大きなシステムなのです。

GQP/GVP体制を動かす「人」- 責任者の役割と要件

このシステムを動かすのは「人」です。特に以下の責任者は、その役割と責任を明確に理解する必要があります。

  • 総括製造販売責任者(総括): 品質・安全管理体制の最高責任者。 品責・安責を監督し、品質不良や安全に関する問題が発生した際には、彼らからの報告に基づいて回収などの最終的な措置を決定し、実行を指示します。
  • 品質保証責任者(品責): GQPの実務責任者。 品質管理業務を統括し、その業務が適正かつ円滑に行われているかを確認します。化粧品の場合、医薬品ほど厳格な経験年数は求められませんが、「品質管理業務を適正かつ円滑に遂行しうる能力を有する者」である必要があり、また営業部門から独立していることが求められます。
  • 安全管理責任者(安責): GVPの実務責任者。 安全管理情報の収集から評価、安全確保措置の立案までを行います。

なお、化粧品事業における三役の兼務に関する具体的な要件については、こちらの化粧品製造販売業許可取得の完全ガイドで詳しく解説しています。

→三役の兼務の詳しい解説はこちら

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化粧品製造販売業許可取得の完全ガイド – 申請から運用までのステップ –

化粧品製造販売業許可の申請ガイド。許可要件からGQP/GVP手順書の作成、総括の役割、行政による立入検査のポイントまで具体的に解説。スムーズな事業開始と法令遵守のために、必ずご確認ください。

GQPの実務:手順書に基づく品質管理業務のポイント

GQP省令(化粧品は第3章)では、製造販売業者が行うべき具体的な業務内容が定められています。その中心となるのが「品質管理業務手順書」の作成と、それに基づく業務の実施です。

1. 品質管理業務手順書の作成(GQP省令 第18条第1項)

これは、自社の品質管理に関するあらゆるルールを定めたマスター文書です。化粧品製造販売業者として、最低限以下の6つの手順を文書化する必要があります。

  • 市場への出荷に係る記録の作成に関する手順: どのロットの製品を、いつ、どこへ出荷したのかを記録する手順。これにより、製品のトレーサビリティを確保し、万が一の回収時に迅速な対応を可能にします。
  • 適正な製造管理及び品質管理の確保に関する手順: 製造を委託するOEMメーカー等が、契約通りに、かつ適正な品質管理下で製造していることを、どのように確認・管理監督するかの手順です。製造業者との「取決め」がこの中核をなします。
  • 品質等に関する情報及び品質不良等の処理に関する手順: お客様からのクレームなど、製品の品質に関する情報を得た場合に、どのように評価し、原因を究明し、改善措置を講じるかを定めます。
  • 回収処理に関する手順: 製品の品質不良などにより、市場から製品を回収する必要が生じた場合に、誰が判断し、どのように実施するかの手順です。
  • 文書及び記録の管理に関する手順: 作成した全ての文書や記録を、どのように承認・改訂・保管するかを定めます。化粧品の場合、記録の保管期間は原則5年間と定められています。
  • その他必要な品質管理業務に関する手順: 上記以外に、自社の品質管理に必要な業務(例:自己点検、教育訓練、責任者間の連携など)を定めます。

2. 日々の業務の実施(GQP省令 第18条第2項)

手順書を作成したら、それに基づき日々の業務を遂行し、記録を残します。特に重要なのは、製造販売しようとする製品が、製造業者において適正かつ円滑に製造されたものであることを確認し、その記録を作成することです。これは、製造業者任せにするのではなく、製造販売業者自身が主体的に関与し、品質を保証する責任があることを示しています。

GVPの実務:手順書に基づく製造販売後安全管理のポイント

GVP省令において、化粧品は第三種製造販売業者に分類され、医薬品に比べて要求事項は緩和されています。 しかし、市販後の安全性を確保する、という本質的な目的は変わりません。手順書の作成は明示的に義務付けられていませんが、実務上、作成しておくことが強く推奨されます。

1. 安全管理情報の収集

お客様や医療関係者、国内外の文献や政府機関など、あらゆる情報源から自社製品の安全性に関する情報(肌トラブル、アレルギー報告など)を能動的に収集し、記録します。

2. 情報の検討と安全確保措置の立案

収集した情報を遅滞なく検討し、製品の安全性に影響を与える可能性があるかを評価します。 評価の結果、必要と判断すれば、回収、販売停止、情報提供といった安全確保措置を立案し、総括製造販売責任者へ報告します。

3. 安全確保措置の実施

総括製造販売責任者が、報告された措置案を評価し、実施を決定します。 安全管理責任者はその指示に基づき、GQP部門とも連携しながら、迅速に措置を実施し、その結果を記録・報告します。

形骸化させないためのリスクマネジメントと「品質文化」

GQP・GVPは、一度手順書を作れば終わりではありません。それらが企業活動に根付いた「品質文化(クオリティカルチャー)」となっていなければ、意味をなしません。

近年の事故事例の根本原因として、生産性を優先するあまり、品質管理のルールが軽視される「企業風土」があったと指摘されています。 つまり、ルール(手順書)以前の、企業としての品質に対する姿勢そのものが問われているのです。

この品質文化を醸成し、GQP・GVPを形骸化させないための具体的な活動が、「自己点検」と「教育訓練」です。

  • 自己点検(内部監査): GQP省令では、品質管理業務について定期的な自己点検が求められています。これは、問題が起きてから対処するのではなく、問題が起きる前にリスクの芽を発見し、継続的に業務を改善していくためのプロアクティブな活動です。客観性を担保するため、原則として点検者自身が従事する業務を点検すべきではないとされています。
  • 教育訓練: 担当者がGQP・GVPの本質を理解し、なぜその手順が必要なのかを納得して業務にあたることが、システムの形骸化を防ぎます。教科書的な内容だけでなく、具体的な失敗事例などから学ぶ研修を計画的に実施し、記録を残すことが重要です。

まとめ:GQP・GVPは、ビジネスの持続可能性を支える生命線

GQP・GVPは、単なる規制対応ではなく、お客様からの信頼を獲得し、長期的なビジネスの持続可能性を確保するための、攻めの「品質保証システム」です。

製造販売業者は、自社が品質保証の司令塔であることを自覚し、GQPを通じて製造現場の化粧品GMPを管理監督し、GVPを通じて市場の声を真摯に受け止める。このGQP・GVP・GMPの「相関」を正しく理解し、全社的な品質文化として根付かせることが、変化の激しい時代において、お客様と社会から選ばれ続けるブランドを築くための、唯一の道と言えるでしょう。

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