【医療機器ポイント解説】QMS/GVP関連省令を歴史と役割から整理・解説

【医療機器ポイント解説】QMS/GVP関連省令を歴史と役割から整理・解説

はじめに

医療機器事業を考える上で重要なキーワードに「QMS」と「GVP」があります。

多くの事業者さんの前に壁となって立ちはだかっているこれらのワード。。
省令の内容と補完関係が複雑で分かりにくいことは、多くの事業者さんを悩みのタネといってもいいでしょう。本記事では、その背景にある制度の歴史から紐解き、各省令の役割を整理して解説します。

一般的なQMSとGVP

QMS(Quality Management System)とは、一般的に「組織が製品やサービスの品質を継続的に改善し、顧客満足度を高めるための体系的な仕組み」を指します。「品質マネジメントシステム」や「品質管理監督システム」と呼称されます。ISO 9001などの国際規格が有名で、品質目標の設定、業務プロセスの標準化、継続的な改善(PDCAサイクル)などを通じて、品質を保証する考え方です。

一方、GVP(Good Vigilance Practice)は一般的に、製品が市場に出た後の「安全」を監視するための仕組みです。Vigilanceとは「用心」「警戒」を意味し、特に医薬品や医療機器のように、市販後に予期せぬ問題が発生する可能性のある製品分野で重要視される考え方で、市場からの情報を収集・評価し、迅速な安全対策につなげる活動を指します。

つまり、QMSで高い品質の製品を作り出し、GVPで市販後の安全を見守る。この二つは、製品のライフサイクル全体を通した信頼性を担保するために、互いに補完しあう関係にあるのです。

日本の医療機器規制におけるQMSとGVP

日本の医療機器規制では、これらの一般的な概念が、法的な強制力を持つ具体的な「省令」として定められています。

  • QMS
    • 通称「QMS省令」:医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号)
    • QMS省令を実現するための通称「QMS体制省令」:医療機器又は体外診断用医薬品の製造管理又は品質管理に係る業務を行う体制の基準に関する省令(平成26年厚生労働省令第94号)
  • GVP
    • 通称「GVP省令」:

ですね。もうちょっと詳しく見ていきましょう。

1. 医療機器規制の大きな転換点 - 平成17年施行と平成26年施行

現在の規制を理解するには、法改正を知ることが不可欠です。転機となるのは、平成17年(2005年)と平成26年(2014年)です。
(ところで、私は平成17年4月に新卒として化粧品会社に入社したので、上司や先輩方は新人教育どころじゃなかっただろうなぁと今振り返って思います。)

平成17年(2005年)薬事法(当時)改正の施行

この改正以前は、医薬品の製造ルールであるGMP(Good Manufacturing Practice)に準じた規制が中心でした。GMPは主に製造工場などの場所(ハード)が品質保証の基準を満たしているかに焦点が置かれ、「製造承認」や「製造許可」もその場所に対して与えられていました。

しかし、この平成17年(2005年)の改正実施によって大きな方針転換がなされました。

  • 「製造販売業」と「製造業」の分離: 市場に製品を流通させることについて全ての責任を負う「製造販売業」と、モノづくりそのものを担う「製造業」の役割が分離され、製品の品質や安全性に関する最終的な責任の所在が、製造販売業者にあることとされました。
  • 「医療用具」から「医療機器」へ:呼び名が変わりました。
  • GMPからQMSへ: 品質管理の考え方も、製造工程が中心のGMPから、製品の設計開発から始まるライフサイクル全体を管理するQMSへと進化しました。これにより、製品の品質は製造現場だけでなく、その前の設計段階から作り込まれるべきであるという考え方が導入されたのです。

平成26年(2014年)薬機法改正の施行

そして、この流れをさらに確実なものとしたのが、平成26年(2014年)11月25日に施行された医薬品医療機器等法(旧薬事法)です。この改正により、製造販売業者に対してQMS体制省令に適合した体制を構築することが、許可要件として明確に規定されました。これにより、平成17年の改正で示された「製造販売業者が品質管理の責任を負う」という役割が、法的に完成したと言えるでしょう。

この二段階の大きな転換により、現在の複雑かつ精緻な規制の骨格が作られました。

2. 許可の要件となる3つのルールとその審査

この法改正の結果、医療機器事業者に求められるルールは、主に以下の3つに整理されました。ポイントは、「誰が」「いつ」「何を確認するのか」が、それぞれ異なるという点です。

① QMS省令 - ”製品”の品質管理監督システムルール

  • 正式名称: 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号)
  • 役割: 全ての医療機器が、設計から製造、出荷に至るまで、一定の品質基準を満たすことを定めたモノづくりのルールです。医療機器の品質マネジメントシステムの国際規格である「ISO 13485」がベースになっています。
  • 確認のタイミングと確認者: 製品を市場に出す前の「QMS適合性調査」で確認されます。この調査は、製品の承認・認証手続きの一環として行われます。
    • 承認品目(クラスⅢ,Ⅳなど) → PMDA(医薬品医療機器総合機構)が調査
    • 認証品目(クラスⅡなど) → 登録認証機関が調査
  • ポイント: QMS省令は、製品を製造する製造所が遵守すべき”モノづくりのルール”を内包しています。そして、製造販売業者は、自社製品を製造する製造所がこの省令をきちんと守っているか管理・監督する重い責任を負います。「QMS適合性調査」では、この製造所での遵守状況が直接確認されるのです。
  • 薬機法上の根拠条項:薬機法第23条の2の5第2項第4号(第23条の2の17第5項において準用する場合を含む)及び第80条第2項(医療機器製造販売及び輸出用医療機器の承認基準としてのQMS適合性調査)
  • 例外: クラスⅠ医療機器のうち、「限定一般医療機器」として国が指定した品目については、設計開発に関する要求事項が適用されないなど、一部の要求が緩和されています。

② QMS体制省令 - ”製造販売業者”の品質管理体制のルール

  • 正式名称:医療機器又は体外診断用医薬品の製造管理又は品質管理に係る業務を行う体制の基準に関する省令(平成26年厚生労働省令第94号)
  • 役割: 上記の「QMS省令」を、製造業者に遵守させるための仕組み(品質マネジメントシステム)を、製造販売業者が社内に構築・維持することを定めたルールです。
  • 確認のタイミングと確認者: 「製造販売業許可」の申請時に、事業所の所在地の都道府県が調査します。
  • ポイント: これは、製造業者を適切に管理監督し、製品の品質を組織として保証するための、製造販売業者に求められる”会社の仕組み”のルールです。
  • 薬機法上の根拠条項:薬機法第23条の2の2第1号(医療機器製造販売業の許可基準)

③ GVP省令 - ”製造販売業者”の市販後安全管理のルール

  • 正式名称: 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令
  • 役割: 製品を市場に出荷した後に、国内外から不具合などの安全管理情報を収集・評価し、必要な対策(回収や情報提供など)を講じるためのルールです。
  • 確認のタイミングと確認者: 「QMS体制省令」と同様、「製造販売業許可」の申請時に、都道府県が調査します。
  • ポイント: これも製造販売業者に求められる、市販後の安全を守るための”会社の仕組み”のルールです。
  • 薬機法上の根拠条項:薬機法第23条の2の2第1項第2号(医療機器製造販売業の許可基準)

まとめ:複雑な規制を理解し、適切な体制構築を

このように、医療機器の品質と安全は、役割の異なる3つのルールによって多角的に担保されています。

  • 製品の品質管理監督システムは、国(PMDA)や登録認証機関が「QMS省令」への適合性をチェック
  • 会社(製造販売業者)の仕組みは、都道府県が「QMS体制省令」「GVP省令」への適合性をチェック

これらの複雑な要件を正しく理解し、事業計画に落とし込むことが、医療機器ビジネスの成功の鍵となります。

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