【法人設立ポイント解説】設立計画から登記、事業開始までの完全ガイド #4有限責任事業組合編

【法人設立ポイント解説】設立計画から登記、事業開始までの完全ガイド #4有限責任事業組合編
はじめに:専門家同士の共同事業に最適な、もう一つの選択肢「LLP」
「法人を設立する」という選択肢のほかに、特定の目的、特に専門家同士が共同で事業を行う際に、非常に有効な「組合」という形態があるのをご存知でしょうか。それがLLP(Limited Liability Partnership)、日本語で「有限責任事業組合」です。
2005年のLLP法施行により設立できるようになった比較的新しい組織形態で、弁護士やコンサルタント、ITエンジニア、デザイナーといった異なる分野のプロフェッショナルが、それぞれのスキルや知見を持ち寄って共同プロジェクトを行う際などに活用されています。
このコラムでは、法人格を持つ会社とは一味違うLLPの特徴と、その設立手続きの具体的な流れを解説します。
合同会社(LLC)との違いは?
LLPは、出資者が「有限責任」であるという点で、合同会社(LLC)とよく似ています。しかし、両者には決定的な違いがあります。
| 比較項目 | 有限責任事業組合(LLP) | 合同会社(LLC) |
|---|---|---|
| 法人格 | なし | あり |
| 構成員の責任 | 有限責任 | 有限責任 |
| 内部自治 | 非常に高い(組合契約で自由に規定) | 高い(定款で自由に規定) |
| 利益の分配 | 自由(出資額によらない貢献度など) | 自由(定款の定めによる) |
| 税制 | 構成員課税(パススルー課税) | 法人課税 |
| 設立要件 | 2名以上の個人または法人 | 1名以上の個人または法人 |
最大のポイントは、「法人格の有無」と「税制」です。LLP自体には法人税が課税されず、得られた利益は直接、構成員(出資者)に分配され、構成員がそれぞれ所得税や法人税として納税します。これを「構成員課税(パススルー課税)」と呼びます。
LLP(有限責任事業組合)設立の3大メリット
メリット1:柔軟な内部ルールの設定
LLPの基本ルールは「組合契約書」で定めますが、その内容は法律の範囲内で極めて自由に決めることができます。例えば、利益の分配割合を、出資額の比率ではなく、それぞれの貢献度や役割に応じて柔軟に設定することが可能です。
メリット2:構成員課税(パススルー課税)による税務メリット
LLP自体は法人税の課税対象とならないため、「法人」と「個人」の二段階で課税されることがありません。また、事業で赤字が出た場合には、その損失を構成員が自身の他の所得と損益通算することができるため、特に事業開始当初の節税効果が期待できます。
メリッ3:有限責任によるリスクの限定
「組合」でありながら、各構成員は、万が一事業が失敗した場合でも、自身が出資した額の範囲内でのみ責任を負います。個人事業主の共同事業(任意組合)のように、無限に責任を負うリスクを回避できます。
LLP設立の具体的な4ステップ
STEP1:組合の基本事項を決める
まず、組合の骨格となる基本事項を決定します。
- 組合の名称
- 事業目的
- 事務所の所在地
- 組合員の氏名・住所
- 組合契約の効力発生日
- 事業年度
STEP2:組合契約書を作成する
決まった基本事項をもとに、LLPの憲法となる「組合契約書」を作成します。特に、利益の分配ルール、意思決定の方法、組合員の脱退や加入に関する規定などを、参加者全員で十分に話し合い、明確に定めておくことが後のトラブルを防ぐ鍵となります。
STEP3:出資金を払い込む(金銭以外も可)
組合契約書で定めた出資金を、各組合員が払い込みます。LLPでは、金銭だけでなく、不動産や知的財産権といった「現物出資」も認められています。
STEP4:法務局へ登記申請をする
必要書類を揃え、主たる事務所の所在地を管轄する法務局に「有限責任事業組合契約登記申請」を行います。申請が受理された日が「組合の成立日」となります。
LLP設立のデメリットと注意点
注意点1:法人格がない
LLPは法人ではないため、組合自体が不動産を所有したり、許認可の主体になったりすることはできません(契約などは組合員全員の名義で行うのが原則)。社会的信用度という点でも、法人格を持つ株式会社や合同会社に劣る場合があります。
注意点2:2名以上の構成員が必須
共同事業を前提とした制度であるため、1名で設立することはできません。必ず2名以上の個人または法人が必要です。
注意点3:事業の継続性が低い
構成員の誰か一人が脱退すると、原則として組合は解散となります(契約書に別段の定めがある場合を除く)。事業を長く継続していく上では、株式会社のような法人形態に比べて不安定な側面があります。
注意点4:法人への組織変更ができない
将来的に事業が拡大し、株式会社など法人格が必要になった場合でも、LLPから直接「組織変更」することは法律上認められていません。事業を法人化するには、一度LLPを解散・清算し、新たに会社を設立し直すという、時間とコストのかかる手続きが必要になります。
まとめ:柔軟性を活かしたプロの協業チーム
LLPは、法人設立という選択肢にとらわれず、プロジェクト単位での協業や、異なるスキルを持つ専門家同士が対等な立場で事業を行うための、非常に柔軟で強力なツールです。
そのメリットを最大限に活かすには、事業の実態に合わせた「組合契約書」の作り込みが何よりも重要になります。共同事業のパートナーシップを円滑に進めるためにも、ぜひ専門家にご相談ください。

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